東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)291号 判決
事実及び理由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決の認定判断は正当であつて、原告の主張は、次に説示するとおり、すべて理由がないものというべきである。
前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証の一ないし三(本願考案の実用新案登録願書並びに添付の明細書及び図面)及び甲第三号証の一ないし三(昭和六一年七月二三日付手続補正書)を総合すると、本願考案は、流し台に関する考案であつて、従来、水切プレートを水槽の左右方向に橋架するようにした流し台や流し台の水槽を複数(多くは二つ)にしたダブルシンクの流し台は採用されており、この両者を組み合わせて、水切プレートをダブルシンクの小水槽にはまるように構成すると調理面が広く使えることになるが、そうした場合には、大水槽が比較的小さくなることは避けられず、大きな鍋等の炊事用具を洗うのに不便になる欠点があり、また、水槽は大きい方が使い勝手が良好になるが、一方、細かく切断された食材や使用済みの食器を一時的に入れるなど小水槽も必要とされる場合も想定され、比較的大きめの単槽シンクを有する流し台においても、実際は水槽内部に半球状のボールを入れておくことがしばしば行われていたことから、本願考案は、このような従来の流し台の欠点を解消することを目的ないし課題として、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成、特に、水槽上端周縁の前後に小ボールを橋架し、この小ボールは水切プレートとは独立して左右方向に摺動自在となるようにするという構成を採用したもので、右構成を採用することにより、<1>使用頻度の多い小ボールが流し台本体上に常にあつて至便であり、<2>水切プレートと小ボールは不使用時には上下方向に間隔をもつて重ね合わせることができるから、場所をとらず、体裁を損なうこともない、<3>小ボールを水槽に橋架しておけば、従来のように水槽の底面に置いて外周が汚水にまみれたり、水道水の跳ね返る飛沫が内部に入るといつた不都合が生じない、<4>水切りプレート上のまな板で細断された野菜をそのまま小ボールに落とし込むことができ、水槽内に散乱させたり、床に落とすといつたことが生じない、<5>小ボールを左右方向に移動させたいとき、例えば、蛇口に近づけたり、野菜を入れて暫時蛇口から離しておくといつたときに、簡単に水槽の隅に寄せることができ、<6>従来のダブルシンクの流し台とは異なり、蛇口の位置が自由に決められる、という作用効果を奏するものと認められる。
他方、第一引用例に、本件審決認定のとおり、水槽上に水切板とともに小型水槽を有する流し台が記載されていることは原告の認めるところ、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例記載の流し台は、水切り及び調理を兼用し、流し台上を有効に使用し、台所仕事を至便にすることを目的として考案されたもので、具体的には、水槽内に小型水槽を取外し自在に嵌め込み、施蓋可能な、まな板を嵌め込めるようにした水切板を小型水槽上に、具体的には、流し台の長手方向全長にわたりその上面前縁部及びバツクガード基部に設けた起縁ガイドに摺動可能に載置した流し台が記載されており、右流し台は、<1>水切板を流しの使用状況に合わせて、適宜使いやすい箇所へ移すことができる、<2>調理台を一体に併設した流し台においてもその上面前後に起縁ガイドを設けて、載置した水切板を必要に応じて調理台部へスライドさせ、水槽部分を広く有効に使用することができる、<3>野菜等の調理に際して野菜等を順次小型水槽内に落とし込むことができる、という作用効果を奏することが認められ、また、第二引用例に、本件審決認定のとおり、ボールを摺動可能とした流し台が記載されていることは原告の認めるところ、成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例には、具体的には、流し台の上部に設けた流しと水槽との接続部分に形成された上鍔に水切プレート板の乗載を可能としたボールを摺動可能に嵌載した流し台が記載されており、右流し台は、<1>ボールの周縁鍔部へ水切りプレート板を乗載することにより、プレート部分の面積を拡大できる、<2>従来のように水槽部分を別に設置する必要もなく、また、ボールを取り除くことにより従来の様に水槽部分が拡大され洗物も一度にでき、ボール単体としても野菜入れや食器等を入れる器としても用いることが可能であり、大きなものはワイド式の水槽にて洗滌し、すすぎなどは小型水槽で多用途に使い分けができる、という作用効果を奏するものと認められる。
よつて、本願考案が第一引用例及び第二引用例記載のものから極めて容易に考案をすることができるものであるか否かについて検討するに、右認定の事実によれば、第一引用例記載の流し台における水切板、小型水槽、起縁ガイドは、本願考案における水切プレート、小ボール、テーブルトツプ周縁の隆起縁に、第二引用例記載の流し台における水切プレート板、ボール、上鍔は、本願考案における水切プレート、小ボール、水槽上縁周縁にそれぞれ相当し、第一引用例には、テーブルトツプ周縁の隆起縁に左右方向に摺動自在な水切プレートを橋架し、水槽内に小ボールを取外し自在に嵌め込んだ流し台が、第二引用例には、水槽上縁周縁の前後に小ボールを摺動可能に橋架し、水切プレートを右小ボールに乗載した流し台が記載されているものと認められる。そして、これらの記載に後記認定のとおり本願考案の作用効果が格別のものと認められない点を参酌すると、第一引用例記載の流し台において、小ボール(小型水槽)の載置方法に代えて第二引用例記載の小ボール(ボール)の載置方法を採用し、小ボール(小型水槽)を水槽上端周縁に橋架し、かつ、右小ボール(小型水槽)を水切プレート(水切板)とは独立して左右方向に摺動自在として本願考案を想到することは、当業者ならば極めて容易になし得る程度のことと認めるべきである。原告は、第一引用例には、小ボールを水槽上端周縁に橋架し、これを左右方向に摺動自在とすることは開示されておらず、また、第二引用例には、水切プレートを上鍔の左右方向に摺動自在とすることは考慮されていないから、第一引用例及び第二引用例には水切プレートと小ボールを独立して左右方向に摺動自在とするように構成することについて全く開示するところがなく、これを示唆する記載すらない旨主張する。しかし、前示本件審決理由の要点によれば、本件審決は、第一引用例には、水切プレート及び小ボールを備えた流し台において水切プレートだけを左右方向へ摺動自在にした構成の開示があり、また、第二引用例には、同様の流し台において小ボールだけを左右方向に摺動自在にした構成が開示されているものとして右各引用例を引用し、第一引用例及び第二引用例に開示された右の各構成から水切プレートと小ボールを独立して左右方向に摺動自在に構成することは格別の創意工夫を要しないものと認定判断したものであることは明らかであり、右認定判断に誤りがないことは前認定説示のとおりであつて、原告の右主張は、本件審決が看過していない事項を看過したものとするか、又は引用しない事項をもつてその認定判断を論難するものというべく、採用することができない。また、原告は、流し台における調理、洗浄作業は連続して行われるもので、さまざまな作用効果を一体として併せもつ本願考案の構成は、それ自体で優れているものと評価されるべきものであるところ、本件審決はそうした点を看過した旨主張するが、本願考案の奏する前認定の作用効果は、第一引用例及び第二引用例記載のものから予測し得る範囲を出ないものであつて、格別のものと認めることができないから、原告の右主張も採用するに由ないものである。なお、原告は、原告自身が、本願考案に係る流し台を昭和五八年四月以来、多数の商品に共通する部品として採用し、そうした商品を製造販売して商業的成功をおさめたという事実は、本願考案の作用効果の優秀性が流し台の需要者に広く受け入れられたことによるものであり、本願考案の容易想到性の判断が誤りであることを間接的に示すものである旨主張するが、たとい原告の主張する事実があるとしても、前認定判断のとおり本願考案が第一引用例及び第二引用例から極めて容易に考案し得るものである以上、このような事実は前認定判断を動かすに足りず、したがつて、原告の右主張は採用することができない。
以上説示したところによれば、本願考案は、第一引用例及び第二引用例の記載に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとみるのが相当であつて、本件審決の認定判断は、その結論において正当というべきである。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
テーブルトツプ周縁の隆起縁に、左右方向に摺動自在な水切プレートを橋架した流し台において、水槽上端周縁の前後に小ボールを橋架し、この小ボールは水切プレートとは独立して左右方向に摺動自在となるようにしたことを特徴とする流し台。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
(以下省略)